学生ライフ
【スーツに悩む新社会人へ】ファッション専攻が教える正当なスーツの選び方

初めまして、新米ライターのサカモトです。
この度はファッションビジネス専攻(ビジネスファッションではありませんが悪しからず)、元某ビジネスマン向けファッションwebマガジンライター、加えて仕立て職人の孫であるワタクシが新社会人の皆々様に、仕立て屋仕込みのスーツの選び方を伝授させていただきたく、こうして筆を執った次第でございます。
(もちろんpcで書いているのだけれど)

年下の小僧の戯言と思わずどうか最後までお付き合いくださいませ。

1.“カッコいいスーツ”ではなく“正当なスーツ”なわけ

まず新社会人の皆様にスーツの選び方を伝授するにあたって、この点についてお話ししなければなりません。
「いいから早く教えろよ!」
と思われた方、まずは落ち着いてくださいませ。せっかちで要点を押さえない男はどんなにいいスーツを着ようといい仕事はできません故。

さて、御託はこのぐらいにいたしまして率直に申し上げましょう。
多くの若いビジネスマンは(特に自分を洒落者だと思っている人ほど)かなりデザインされた“カッコいい”スーツを着がちです。
どうしてそれがいけないのか?
それは長く着ることができないからです。

ファッション業界というのはいったい誰の利権なのか、はたまた自然発生するものなのか、流行り廃りというものがございます。それはスーツ業界でも例外ではありません。
幸い紳士服の流行りというのは婦人服のそれに比べて変化は緩やかです。しかしそれでも流行りというのは文字通り“流れて行く”ものなのです。

またトレンドを重視したような“カッコいいスーツ”を作るブランドは往々にして雑誌への広告の掲載による広告費、過度なデザインによるデザイン料などが商品の単価に影響するため割高であることが多いのです。
具体的に言うなら少し前まであった、まるでスキニーパンツのように細いスラックスのスーツなどがそれにあたります。
毎シーズン最先端のスーツが買える富裕層はともかく、我々庶民の財布にはそれでは痛手でしょう。

しかし案ずることはありません。そんな流れにも負けない、何が流行ろうが変わらず美しいスーツというのが、さながら偉大な建築のようなスーツがございます。

それはいわゆる“クラシックスーツ”と呼ばれるものです。

分かりやすく言えば、決して流行を過度に追わず、丁寧に作られたスーツのことを言います。
具体的にどういったものか次の項目でご説明いたしましょう。

2.正当なスーツとは何ぞや? ~御託編~

誤解を恐れずにいうのであれば、“正当なスーツ”すなわちクラシックなスーツというのは、“仕立て職人が手間暇かけて作ったスーツ”です。
「そんな高いモン買えるかッ!」
と思った方、落ち着いてください、せっかちな男(以下略)

もちろんそんなものを新社会人に買えとは申し上げません。ワタクシのような着道楽は必至こいて貯めた貯金を散財してそういったものを買うこともありますが。
散財の覚悟と知識があるなら大いにワタクシと語り合いましょう。いい職人を紹介します。

……おっとまた横道にそれてしまいました。

さてそんな着道楽でない皆様に朗報です。そんなバカみたいな散財しなくても(もちろんワタクシの事)ある程度それに近いものは手に入ります。それを説明しましょう。

3.正当なスーツとは何ぞや? ~生地編~

まずクラシックなスーツの条件としましては、“いい生地”であることが不可欠です。
しかし職種によって使える生地使えない生地というのがありますので、ひとまずどんな職種でも嫌味にならない程度のものをご紹介いたしましょう。

ここでいう“いい生地”というのは一言でいうと“ウール100%”のスーツです。成分表記タグを見る癖のない方、スーツを選ぶ際は是非ご覧になってみてください。だいたい左の内ポケットの中にあります。

ではなぜウールがいいのか?
それは“ベーシックだから”です。

スーツの生地というのはその原型が完成した1890年代ごろ(諸説あり)から変わらずウールが基本です。それは現代でも全く変わっていません。

ではそのウールの利点をあげていきましょう。
まず第一にその復元力にあります。ウール、すなわち羊毛の繊維というのは湿度を含むと元の形に戻ろうとする性質がございます。それゆえ1日着用してシワになったスーツでもスチーム(霧吹きでも可)をかけて1日ハンガーにかけておけばシワが元どおりに伸びるのです。
こういったケアのことに関しては掘り下げると結構な量になりますのでまた別記事にて特集しよう思っております。

次の利点はその耐久性です。
近年はスーツの生地にやれ機能性や、やれストレッチなどと謳って化学繊維を混ぜて原価を下げようとするけしからんブランドもございますが、こういったものはウールのものに比べて大きく耐久性に劣ることがほとんどです。それにいいスーツであればストレッチなどなくても十分動きやすいのです。それについては後述の作り編にて説明いたします。

4.正当なスーツとは何ぞや? ~色柄編~

新社会人の皆様、よもやリクルートスーツは黒だと販売員やご両親に言われて黒のスーツをお買い求めになりませんでしたか? 
残念、あなたは騙されてございます。
なんとおいたわしいことか、黒のスーツを当たり前のように仕事で着るのは日本人だけなのです。このグローバル社会でそんなローカルスタンダードを押し付けるなど言語道断。
そもそも黒という色はタキシード、モーニング、燕尾服などの礼装で用いるのが正当です。(礼服は光沢のある黒、喪服は光沢のない黒です)
ですがとりあえず喪服としては使えるでしょうからそのスーツはクローゼットにしまっておきましょう。

では何色ならいいのか?
それはグレーです。といっても明るいこれらの色ではなく極めて暗い濃紺や鉄紺、チャコールグレーなどがいいでしょう。

また職場が許すのであればそれらのもう少し明るい色味などで季節感を楽しむのもいいでしょう。(冬はより暗いもの、夏はより明るいものなど)

柄は1着目であれば無地一択です。何着か目であるならば、細い控えめなストライプなどのあくまでビジネスに適した柄であれば構いませんが、基本的に無地の方が無難でございましょう。それにこれは持論ですが、”無地に勝る柄はなし”でございます故。

5.正当なスーツとは何ぞや? ~作り編~

さて、ここからは正当なスーツの作りについて見ていきましょう。といっても非常に専門的な内容も多く、ここでご説明できるものは限られていますがご了承くださいませ。
まず作りの良し悪しを度るときに見るのはスーツの肩です。

まずはこちらの写真をご覧ください。

これはスーツを真上から見た写真ですが、肩に対して袖の部分の膨らみが大きいことが見えますでしょうか? 
これは、小さい袖穴に対して太い袖を縫い付けてある=難しい作業であることはおそらくお分りいただけるでしょう。袖穴は小さく、それに対して上から見た袖が大きいほど腕の可動域が広い=動きやすいのでございます。

次にこの袖を横からご覧ください。

身頃に対して袖がわずかに前に湾曲し、袖に縦のシワが緩やかに走っているのがお分かりいただけますでしょうか?

これは人間の腕というのは肩から真っ直ぐストンと落ちているものではなく前に湾曲していることから、それに沿った作りになっているのでございます。

次はスーツの襟ぐりをご覧ください。

この2枚を比べますと1枚目の襟ぐりは四角いタグに縫い目がなく、上襟が一枚のパーツでできていることが分ります。
対して2枚目は、タグの上に縫い目が横に走っているのがお分かりいただけますでしょうか?
これは一枚でつくるよりもより簡単に襟の成形ができるため、このような仕様になっているのでございます。

つまり、ここを一枚で作っているということは、より手間暇をかけているという証拠なのです。また上の写真の方がより丸く襟ぐりのカーブが描かれていることがお分かりいただけるかと思います。
これはより人間の首の丸みに沿っている証拠なのですね。

次に襟をめくって下襟の裏をご覧ください。

写真中央、細かい縫い目があるのがお分かりいただけるでしょうか。
これは襟の中の芯を生地に縫い付けた跡なのですが、この縫い付けるタイプの芯を毛芯(けじん)といいます。たいしてここに縫い目のないものは、縫い付けるのではなく糊のようなもので接着する接着芯(せっちゃくしん)という芯を用いています。

ではなぜ毛芯のほうがいいか?
それは接着芯だと雨に濡れた際や、クリーニングの際に、糊が剥がれてしまうことがあるからです。縫い付けてあればまず外れることはありません。

この芯というのはなにも襟だけでなく身頃にも入っていますが、それが毛芯かどうか、バラさずに確認できるのはこの襟裏だけなのです。ここが毛芯ということは他の芯も毛芯である場合が多いです。
※ただ夏物だと通気性や軽さのために芯を排している場合もございますので、この点は販売員さんに確認しましょう。

以上がだいたいのいい作りのスーツの条件になります。もちろんこれらを踏まえていてもサイズがあっていなければ本末転倒でございます。よく試着して吟味なさるよう。

6.正当なスーツとは何ぞや? ~ディテール編~

さて、お次は作りなどのような技術的なお話ではなく、ぱっと見でわかるデザインのお話でございます。
ベーシックなスーツのディテールとはどのようなものか、ご説明致しましょう。

まずは肩のラインから。

この写真のように肩パッドで無理に誇張するわけでもなく、小さすぎたり、自分の肩に綺麗に乗らず不自然なシワがよったりなどせず、自然に首に向かって登るようなラインのものを選びましょう。

次に襟の幅と高さについてでございます。

襟の幅は写真の通り8〜9cm前後が望ましいでしょう。
細すぎるとデザイナーズブランドのスーツのようになりますし、太すぎてもいかつい印象になってしまうのでご留意を。

襟の高さ=下襟と上襟の縫い目の部分のことですが、ここの部分を”ゴージライン”と呼びます。このゴージラインも高すぎず低すぎず、9cm前後が望ましいでしょう。
すこしリラックスしたような雰囲気にしたいのであればこのゴージラインがもう少し低め(9.5~くらい)でも構いません。

次はスラックスについてご説明しましょう。
スラックスは写真のように太ももの部分(=ワタリ)にある程度ゆとりがあり、プリーツの入ったもので、すそ幅は20cm前後がいいでしょう。

これはこれらにゆとりがないと内股の部分がより擦れやすく、破れの原因になるからでございます。

ただ上記のような数値は似合う、似合わないということもあります故、多少前後するのは一向に構いません。

7.最後に

さて、だいたい要点はもう読んだしシメは読まなくてもいいなと思っていらっしゃるアナタ。せっかちな(以下略)
まだ重要な点が残っております。焦らずおつきあいくださいませ。

以上の事を踏まえて、ぶっちゃけどこで買えばいいのか?
それはワタクシの口から申し上げるわけにはいきません。ワタクシがこうして記事を書いているのは特定のブランド様のためではございません。ですからそのようなステルスマーケティング(ステマ)は行えないのでございます。

そこで最後に賢いスーツの買い方をお教えしましょう。

まず予算を決めてくださいませ。予算が決まりましたらその予算で買える色々なスーツを実際に試着してみてくださいませ。
そのなかでここまでの正当なスーツの要点により近いものをお選びくださいませ。
そうして何着か買っていくうちにおそらく、ご自分にあったスーツが見つかる事でしょう。

そうして気づくのです、素晴らしい正当なスーツとは”究極のベーシック”で、そこに服の個性など必要ないことを。
ワタクシはアナタの素晴らしいスーツライフを祈っております。

”背広というあのきまりきったものを、いかすようにして着ることは、全く素敵な事なのであって、それが出来る人でなくては、大したことはないのである”
── 森茉莉「私の美の世界」(新潮文庫)より

編集部から一言

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