引用元:https://eiga.com/movie/83796/gallery/21/
「誰そ彼、これが黄昏時の語源ね。黄昏時は分かるでしょう?」
ユキちゃん先生の澄んだ声がそう言って、黒板に大きく『誰そ彼』と書く。
「夕方、昼でも夜でもない時間。人の輪郭がぼやけて、彼か誰か分からなくなる時間。人ならざるものに出会うかもしれない時間。魔物や死者に出くわすから『逢魔が時』なんていう言葉もあるけれど、もっと古くは、『かれたそ時』とか『かはたれ時』とか言ったそうです。」
ユキちゃん先生は、今度は『彼誰そ』『彼は誰』と書く。
「はーい、センセイしつもーん。それって『カタワレ時』やないの?」
――それを聞いて、ユキちゃん先生は柔らかく笑う。
「それはこのあたりの方言じゃない?――」
「君の名は」が世に上映されて、もう2年以上経つ。
あなたは覚えているだろうか。目を閉じ、想像してみて欲しい。
美しい自然に溢れ、歴史ある伝統を脈々と受け継ぐ糸守町。
日暮れとともに明滅するネオンや、多くの人でにぎわう東京。
田舎町で暮らす、東京に憧れる少女
都心に住む少年
住む場所も、環境も、正反対の二人の物語は、星が降った日に、ついに動き出した。
プロローグとは序章、物事の始まり、発端。物事には必ず始まりと終わりがあり、誰もがいくつもの始まりと終わりを、人生の中で経験してきたはずだ。様々な種類のを。
2016年8月26日にこの『君の名は』が全国ロードショーをして、あの夏、この奇跡の物語に日本中、いや世界中が恋をした。そして今この瞬間もこの物語に片思いをしている。少なくとも僕はそうだ。
あの美しい映像、美しい音楽、美しい世界は、観た人それぞれの素晴らしい時間、作品。そして、きっと生涯忘れない思い出として残っていくことだろう。
さて、またあの物語を共に思い返してみようか。
せつな
引用元:https://eiga.com/movie/83796/gallery/14/
―朝、目が覚めると、なぜか泣いている
見ていたはずの夢は、いつも思い出せない
ずっとなにかを、探している。
あの日。星が降った日。それはまるで―
まるで、夢の景色のように。
ただひたすらに、美しい眺めだった―
流星が流れる映像と共に語る二人のセリフ。当時瀧は中学生、三葉は高校生。二人の間には三年間という時空の隔たりがあったというのに、離れていても、手の届かない場所にいても、同じものを見て、同じことを思っていた。
「まるで夢の景色のように、美しい眺めだった」と。
引用元:https://eiga.com/movie/83796/gallery/20/
「な・・・な・・・。なんよそれ?」
私は青ざめる。授業が終わり、ダッシュで家に帰る。自分の部屋に篭り、古典のノートを開く。「お前は、誰だ?」の文字。―そしてひときわ大きく、「この人生はなんなんだ?」の文字。
「これって・・・これってもしかして」
俺は部屋に篭り、信じられない思いでスマフォを凝視している。指先が勝手に震えるその手で、日記アプリの覚えのない、いくつもの見出しや内容を辿る。
「これって、もしかして本当に・・・」
俺は夢の中でこの女と―
私は夢の中であの男の子と―
入れ替わっている!?
瀧は、学校の友達、バイト先の奥寺先輩、同僚達の自分への反応や、スマフォの日記を読んで。
三葉は、ノートや左腕に書き連ねられたメッセージ、クラスメートの自分を見る目が変わっていて。
よくできた夢だなという思いは、何かがおかしいという違和感に変わった。
そして二人は気づくのだ。今まで夢だと思っていたことはすべて、本当の出来事だったのだと。
―カタワレ時だ。
声が、重なった。
引用元:https://eiga.com/movie/83796/gallery/2/
「三葉」
「・・・瀧くん?瀧くん?瀧くん?瀧くん?・・・瀧くんがおる・・・!」
「お前に、会いに来たんだ」
ほんと、大変だったよ。おまえ、すげぇ遠くにいるから―
引用元:https://festy.jp/web/posts/1003962
「・・・言おうと思ったんだ」
「お前が世界のどこにいても、俺が必ず、もう一度逢いに行くって」
「大事な人、忘れちゃだめな人、忘れたくなかった人!」
「誰だ、誰だ、誰だ?・・・名前は・・・!」
カタワレ時。人の輪郭がぼやけて、この世ならざるものに出会う時間。
互いの声は聞こえるが、姿が見えない相手を必死で探す二人に夕暮れが包み込み、二人は再会する。
入れ替わっていた二人の心と体も元に戻り、ただただ泣きじゃくる三葉に、優しい微笑みを浮かべる瀧。
―そして二人は柔らかく輝くカタワレ時の世界の片隅で、小さな子どものように笑い続ける。
カタワレ時が終わり、夜が来て、三葉は消えた。そして時間が経つにつれ三葉の名前を忘れていく瀧。忘れたくないのに忘れてしまうという残酷な運命にもがきながらも、この寂しさの感情だけは抱え続けていくのだと心を強く決めた。
―宮水神社の御神体から出て、此岸(現世)に戻るのには、二人の一番大切にしているもの(記憶)を引き換えにしなければならない―
このとき瀧はこのことを気づいていたのだろうか。
そして、いつのまにか岩だらけの山頂で寝ていたらしい瀧は、目が覚めて呟く。
「俺、こんな場所で、なにしてたんだ?」
併走する電車の中で突然に出遭う二人。
「「ずっと、誰かを・・・探していた!」」
―やっと逢えた。やっと出遭えた―
「あの、俺、君をどこかで」
「わたしも」
俺は気づく。全身が、かすかに震える。
私は気づく。いつのまにか自分が泣いていることに。
私の涙を見て、彼が笑う。私も泣きながら笑う。
そして俺達は、同時に口を開く。
笑ったり、泣いたり、怒ったり、へこんだり、はしゃいだり、叫んだり。すべての一瞬。感情をギュッと凝縮した「君の名は」。
この素晴らしいひと時を、かけがえのない時を誰かと分かち合いたい、一緒にいたい。
今、自分が愛すべき、大切な人がいる人はもちろん。今それを見つけられてない人にも希望はあるんだと、灰色の、モノクロームの渇ききってしまった殺風景な心に一滴の潤いが満たされる。
そんな作品であってほしい。あり続けてほしい。—幾星霜の時が経とうと—
そう切実に願う。
でも、あなたは見終わった瞬間から、ゆっくりと時間をかけて、この物語を言葉にできない様々な感情と共に、記憶から消え去ってしまうことだろう。
たった今この記事を読んでいる瞬間も。
それを忘れまいと、
だから僕らは美しくもがき続ける。運命に抗い続ける。
さて、何から話そうか。
疑問に思ったことはないだろうか。僕たちは新海誠のことについてあまり知らない。趣味は何なのか、普段休日は何しているのか、好きな食べ物は、座右の銘は。それなのに僕らは新海誠をすばらしい人と評価する、次世代の監督として期待を寄せている、なぜだか親近感を覚える。一度も会ったことがない、一緒に遊びに行ったことがない人のほうが多数なのに、多くの人が高く評価する。
それは、この「君の名は」を通して、新海誠はどんな人物なのか見出したからなのではないだろうか。
それが、三葉のおばあちゃんの言うムスビなのかもしれない。この物語を通して、新海誠はもちろん、多くの人がつながりあっていくのだと、僕は教えてもらった。
新海誠は今までに様々な作品を作ってきているから、ぜひ、これを機にみて欲しい。映画もそうだが、受験生にはクロスロード(Z会、CM)、家族のぬくもりを感じたかったら誰かのまなざし(誰短編アニメ、約7分)この二つはおススメだ。
新海ワールドはまだまだ終わらない。これからも多くの人に感動と幸せを与え続けてくれるだろう。
次回、美しき孤悲の物語。
―あなたはまだ、物語に片思いしていますか?―
引用元:http://www.kotonohanoniwa.jp/special/gallery015/